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Photo: Yusuke Nishimitsu
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そもそも、つっかえたらまた最初からなんて約束するもんじゃなかった。
右耳の後ろでザブッとした音の直後に、無言で「心配」を体現したような颯爽さで近づく音。タン、タン、タン、と足元で音がする。落涙。
それを見たくても見られないのは、染み込みやすい壁に放水でなんかを描いてるやつらが左舷の先にいるからだ。濡れると黒っぽくなる壁を塗りたくる彼らは、夜を拡げるという密かな任務を遂行している。昨日の夜も一昨日の夜も彼らが作ったのだろう。
本船が橋をくぐるときには決まって、おーい、と声をかけて去っていくトレンチコートに白マスクの男がいる。巨大なアーチ型の水門の隣の小さい方の水門をくぐるときは年寄りのアオサギが飛び立ち、水面の水鳥は魚雷と相似形を持つ。先頭の背中にはしがみつく魚人の悟ったような顔。クレーンの空き地に転がる無数の野球ボール。隣りの高校球児は帽子が水に濡れるのを嫌がる。
ゴルフ的場の二階の人たちに冷凍したボラでスイングしてもらうように交渉する女性の姿がある。彼女の弟は尾ヒレまで入れた全長84センチのスズキをフルスイングして、正面に据えてある的の中心を二度も射抜いた。びっくらぽん。
サギ、ボラ、スズキ。
糸網には 井戸から這い上がったカメが二匹。煙幕の匂いに興奮した鵜が一斉に首を伸ばし、滅多に打ち出されない虹色のゴルフボールのみを正確に空中で咥えては、巣に持ち帰る。巣の中身はとても煌びやかだが、キラキラすればするほど巣自体が地味に見えるということに、この鵜は納得がいかない。
阪神マリーナの屋上から大量の湯気が出ているのは、フットサルチーム全員分のカップ焼きそばの湯切りをしたせいだ。湯切りが済むと煙突のハシゴを登って水路 の奥、享保元年より代々受け継がれる水防団のアジトに、本船通過のサインを送信する。切られた湯はヒスロムのアルミボートを満たすたびにベコンと音を鳴らし、最終的に辰巳兄弟のウェットスーツの中をあたためるメカニズムに組み込まれる。
直径4メートル超の銀の玉は、監視の人々の手を離れて、自らに風穴をあけた。内側の金から吹き出すシンナーの臭いに混ざって、人生を振り返る懐メロが聞こえる。黄色のビブスを身につけたチームは、全員が同じ「山田」のゼッケンをつけたまま走っていて、三軒家水門を本船が通ると同時にコートを飛び出すと、ブザーの音量に呼応するように、小屋の中で折り重なる。つい一瞬前まで走っていたものだから、全員の呼吸で窓は曇りがちだ。
小屋の壁はペンキを塗り立てだったので、 玉から飛び出すシンナーの臭いと相まって、11人の山田たちはときどき戦力外通告を受けてしまうほどだった。戦力外通告を受けた山田は、掘と辻の交差する ベンチで携帯の待ち受け画面に登録されていく。タン、やや荒めにタカ、タン、と足元で音がする。落涙。
サギ、ボラ、スズキ、カモ、コイ、ナマズ、ドジョ ウ、ブルーギル、フナ、ウナギ
船と川のイベントで乗り込む人が、船川さん。あぁ、このイベントにもってこいの名前ですね、こんにちは。早川さん、どうもこんにちは、船川さんに続いてピッタリの名前ですね。ディテールに脚をとられると進めないので、早川船長にフットサル場へと急いでもらう。西の村からでてきた彼の訛りはいつも聞き取りづらいが、今回ばかりははっきりと、こちら裏船。小豆が船酔いしないために大きな坪のかたちをしたトランペットが必要です。どうぞ、と聞き取ることができた。
わたし一風堂の人とよく間違われるんですよ、というアナウンスが土から本船に届く頃には、もう玉の鏡面に写り込んだ反対側にたどり着いていないと間に合わな いので、願ってない事ばかりを口にするように気をつけていた。いつしかそのせいで自分がオオカミ少年と呼ばれることになったとしても、仕方のないことだ。 プロペラにロープが絡みついてエンジンがかからなくなり漂流しても、シャチに追われたアザラシが後部座席に飛び乗ってきても、もはや誰も信じてはくれない。ぽつりぽつんつん、おっことすまで、すっとことん。
小雨で沸騰した石と温水カイロのせいで東横堀川の温度が0.02℃上昇し、塩の間に挟まった大男が直径2.6メートルの黒玉を担いで水門を通り過ぎる。そいつを凹んだ水面に浮かべたら、釣り元をたどって親綱を手にし、反対側を小屋の中に窓から引き入れてもらおう。U 字の鉄に5メートルの長い木の棒を刺したり抜いたりしながら、その細い先端に透し彫りで彫り込んである文字列。
コイ、ナマズ、ドジョウ、ブルーギル、フ ナ、ウナギ、スズキ、アジ、サバ、ボラ、ヌートリア
ぽんつく、おっこと、すっとんとん、という3人組の名前をゆっくりイニシャルで読み上げたら、裏船はすっかりヌートリアの家族に包囲されていた。
ふたたび巨大なアーチ型の水門を出たところで、大きな貨物船が横切る。明日の裏船には九代め、海賊の末裔の娘が乗船することになっている。ch30。大家さん違います、乗り込むのは僕らの船じゃありませんよ。汽笛を鳴らし近づいてくる、大きな星のマークの巡視船。おまえら次見かけたら十中八九拿捕する、とわざわざ忠告しにやってきた白い制服の2人組。防波堤につけた星の船体は、水面の弱い反射を拾って鈍く灰色に光る。昔のパソコンみたいな色だなぁ、なんて思って眺めているとキラキラ反射を映す対岸には普段は見慣れないマンション群の背中。ルームライトにぼんやり、あなたの横顔が写る。もう送られる事にもなれてしまったみたい。
もうすぐ最後の船着き場が見えるはず。それほど遠くに来たわけではない。ぼんやりと思い出せる。そうだ、最初は良き啓示だと受け取ったんだった。セーラー服が雨に濡れてしまっても気にしない。港では川底の小石を浚って温めたスープが、下戸屋で乗組員の帰りを待っているのだから。
夜の水路は水深を考えられないようにできている。
辰巳弟から、 カヌーの先っぽが川底に刺さって抜けなくなったという知らせがch7に届いたので、今日のところはこのまま離脱する。アルミボートは星のマークに追われて 海に出たまま戻らないだろう。ch30。船長、ガス欠です。もう現在地がわかりません。
ノイズに埋もれて次第に遠のく無線の声とは引き換えに、季節外れのロケット花火は「懐疑」と「歓喜」のちょうど中間にある甲高い音を水面に写し、そのまま黒い夜に溶け出していった。
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水没させたノートが、水没都市
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Photo: Yusuke Nishimitsu
みおつくし(澪標)というのは、古歌にもよまれているように、昔、 難波江の浅瀬に立てられていた水路の標識です。 摂津名所図会にはクイの上部に板をX型に打ちつけたものだけが見られますが、 天保年間の絵図には今の市章と同じ形をしたものが描かれています。 大阪の繁栄は昔から水運と出船入船に負うところが多く、人々に親しまれ、 港にもゆかりの深いみおつくしが、明治27年4月、大阪市の市章となりました。
大阪市ホームページhttp://www.city.osaka.lg.jpより引用
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Photo: Yusuke Nishimitsu
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例のクレーンから数百メートルの所。当時
Photo: Yusuke Nishimitsu
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Photo: Yusuke Nishimitsu
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ユーハイム、大正、俘虜、
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Photo: Yusuke Nishimitsu
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Photo: Yusuke Nishimitsu
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